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COLUMN

自作自演の夜

 数年前、自分の誕生日会の幹事をした。単なる思いつきだった。
 最初に悩んだのは場所だ。検索や条件入力を繰り返し、二十四時間使えるという、駅からもわりと近い、立派な台所のついたマンションの一室を借りることとした。料理上手の友だちに、料理を作ってもらうつもりでいたので、台所はかかせなかったのだ。
 ケーキも自分で探して予約した。場所代同様に、自分で支払うつもりでいたが、女友だちが「さすがにそれはわたしがおごってあげるよ」と言ってくれたので、甘えた。
 誘う人たちへのメールの文面には「自作自演誕生日会をします」と書いた。

 当日、予想外のことがたくさん起きた。
 前日にわざわざ連絡をくれていた友だちは、実は日にちを間違えて昨日も来ていたのだと笑いながら白状してくれた。
 料理上手の友だちは、想定よりも多い品数を作ってくれていた。
 その日の日中に会っていて、既に泥酔状態となっていたため、夜の参加は無理だろうと思っていた友だちも、あとからタクシーで駆けつけてくれた。ろれつが回っていないまま、おめでとう、と言ってくれた。ろれつが回っていないまま、わたしが遠慮して誘わずにいた友人に電話をかけ、呼び出してくれた。
 同じく日中に会っていたけれど、パーティーが好きじゃないので不参加だと言っていた友だちも来てくれて、巨大な箱まで持っていた。中身は誕生日ケーキ。しかも、わたしの写真が表面に印刷されているというものだ。ケーキが大量にある状況に笑い、自分で自分の顔にナイフを入れる状況に、また笑った。

 すっかり真夜中になり、人数も少し減ったころに、部屋の大きなテレビで、映画を観た。
 松田優作が出ている「ブラック・レイン」。テレビ横の棚にあった大量のソフトから、それをチョイスしたのが誰だったのか、いまだにわからない。
 大阪の地理に詳しい友だちが、副音声のように解説を加えてくれて、それが映画本編よりもおもしろいくらいだった。
 当然のことながら、映画の内容は誕生日にはまったく関係がなく、その事実だけで妙に笑えた。
 笑っていない瞬間よりも、笑っている瞬間のほうが、ずっと多い夜だった。

 何度となく、二度とない夜だ、と思っていた。来年、もしまた誕生日会を開催しても、来てくれる人は異なる顔ぶれになるだろう。
 今日会った人たち。今日交わした言葉たち。今日見たものたち。何もかも忘れたくない、と思いながら、すっかり明るくなった駅までの道を歩いて、みんなと別れた

 プレゼントは不要です、とあらかじめ伝えていたのだが、何人かはプレゼントを持ってきてくれていた。
 そのうち一人がくれたのは、わたしが好きなゲーム「ときめきメモリアル」の、パソコン版タイピングソフトだった。
 帰宅して眠り、目を覚ましたときに、すぐに開封して少しだけやった。おもしろかったけど、クリアするのがなんとなくもったいなく感じられ、実はいまだにクリアしていない。
 誕生日会をした部屋は、レンタル元の会社がなくなってしまったようで、もう借りることはできない。少し前に、ふと思い出して検索し、それを知った。「ブラック・レイン」は今はどこにあるのだろう。
 忘れたこともたくさんあるけれど、忘れなかったこともたくさんあって、思い出すといまだに笑ってしまったりする。

加藤千恵(かとう・ちえ)

歌人・小説家。1983年生。北海道旭川市出身。立教大学文学部日本文学科卒業。2001年、高校在学中に短歌集『ハッピーアイスクリーム』(現在、集英社文庫)にてデビュー。小説、詩、エッセイの他、ラジオなどのメディアでも幅広く活動中。近著に、『わたしに似ていない彼女』(ポプラ社)、『この街でわたしたちは』(幻冬舎文庫)などがある。http://katochie.net

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