帰省ギフト|ふと、ギフト。パルコ|PARCO GIFT 帰省ギフト|ふと、ギフト。パルコ|PARCO GIFT

COLUMN

いない時間へ

「帰省ギフト」というテーマをもらって思い返してみたけれど、僕は実家にお土産をもって帰ったことがないとおもう。SMAPファンの母親に頼まれて東京でしか買えないSMAPグッズを買ったことがある気もするけれど、それは帰省ギフトとはすこし違う気がする。32歳になって実家にお土産を買って帰ったことがないってとても良くない気がするぞ。とはいえ、何を買って帰れば喜んでもらえるかを考えるとなかなか難しい。家族は頻繁に東京を訪れているし、いざとなればネットで買えちゃうし……とか考えるから僕はだめなんだろうな。はなればなれの時間っていうのは、そばにいるときよりも相手への想像力が強くなる。そばに「いる」ときは「いない」ことをなかなか想像できないけれど、「いない」ときは「いた」ことをいつも考えてしまう。会えない時間に考えた、あなたへの想像力の結晶こそが正しい帰省ギフトなのかもしれない。それってどういうことだろう。いま僕は東京でこの文章を書きながら、宮城県で暮らす家族のことを想像している、ソファに座って俳句の勉強をしている父親の顔や、料理をつくりながらテレビでNetflixの韓国ドラマを観ている母親の姿。僕のいない家族が暮らす時間を僕はいま想像している。そこへギフトを送るとしたらなんだろう。一瞬、自分の等身大パネルとか考えたけど、マジでいらないだろうし俺も全然あげたくないな。やっぱりベタだけど食べ物かもなぁ。東京でみつけた美味しい食べ物。ただ、僕はそのお土産を実家に帰った初日には渡さないで、僕が再び東京にもどる日に渡したい。「そういえばこれ買ってきたんだけど渡しそれびれてた。じゃあね」って感じ。そして、東京に戻る電車に乗りながら。家族が僕の帰省ギフトを食べている姿を想像したい。僕のいない時間を彩るようなギフトを家族に贈ろう。

三浦直之(みうら・なおゆき)

ロロ主宰。劇作家。演出家。「家族」や「恋人」など既存の関係性を問い直し、異質な存在の「ボーイ・ミーツ・ガール=出会い」を描く作品をつくり続けている。古今東西のポップカルチャーを無数に引用しながらつくり出される世界は破天荒ながらもエモーショナルであり、演劇ファンのみならずジャンルを超えて老若男女から支持されている。『ハンサムな大悟』で第60回岸田國士戯曲賞最終候補作品ノミネート。2019年脚本を提供したNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞脚本賞を受賞。9月にKAAT神奈川芸術劇場にて、いつ高シリーズ新作vol.8の上演を予定している。
撮影:三上ナツコ

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